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2004年03月13日

”片づけるべき用事”の市場で、情報産業の将来を見つける

先日のCNETフォーラムの一番最後のトーク・セッションは、色々と刺激的な発言が飛び出して面白く、もっと時間があったらどのような方向に議論が進んだのか興味があります。今後のIT産業を考える、というテーマにおいて、Finalcial TimesのEli Noam氏の記事を発端に、いくつかのブログで盛り上がっていた記事が面白かったので、ちょっとメモしてみます。
興味を引かれた点は、IT産業、情報産業という同じテーマについて書かれているにもかかわらず、”IT産業とは”という切り口と、”ITによって生まれる産業”という微妙に異なるアプローチで書くことで、一方は悲観的になったり、他方は将来性があるように思えたり、かなり異なった結論になっているという点です。

Eli Noam氏の記事は、情報産業の構造的な問題から、産業として悲観的にならざるを得ないというものです。固定費用(生産量に依存しないコスト=開発費)が膨大だが、限界費用(生産物を1単位増加させたとき、費用がどれだけ増加するか=流通のコスト)が著しく低いので、投資回収が難しく、また不安定な産業構造である、というのがNoam氏の指摘です。
例えば、電話網(IP Phoneを含む)の構築には膨大なインフラ投資が必要だが、国際通話料はあっという間に値下がりして、IP電話では無料になってしまった。新聞のニュースはwebで無料で読めるし、大学の研究成果もしかり。ソフトウェアや音楽、映画なども制作に膨大な費用がかかるにもかかわらず、コピーして配布するのは、ほとんどコストがかからない。

Eli Noam: Market failure in the media sector(FT.com)

International phone call prices have dropped, and with internet telephony will move to near-zero. Web advertising prices have collapsed. Much of world and national news is provided for free. A lot of software is distributed or acquired gratis. Academic articles are being distributed online for free. TV and radio have always been free unless taxed.

よってもってして、情報産業に過度に依存する産業社会は、本質的に不安定要因を抱えている。という結論に対しては、あまりに悲観的過ぎて、情報産業のもたらす効果の一側面しか見ていないのではと、Financial Timesの同じページでRichard A. Epstein氏の反論として掲載されている他、様々なブログでも指摘されています。

ただNoam氏の記事が総論として反響を呼んだのは、なぜか情報産業では、常に供給過剰、過当競争、どんどんモノの値段が下落する構造になっている、という部分の共通認識があったからではないでしょうか。具体的には以下のように書かれています。

Classic approaches such as Keynesian demand stimulation, or monetary policy or industrial strategy do not address the core problem of the information sector. That problem is not inadequate demand or investment, but over-supply, competition and structural price deflation.

ケイジアン的な有効需要の創出や、マネタリスト的な資金供給?などの古典的なアプローチでは情報産業の問題をあつかえない、とかなり曖昧かつバッサリと書かれているのは何ですが、なんとなく、ではどうすればよいのだろう?という危機意識は読み取れます。
これに対し同じページでEpstein氏は、”ゼロ・コスト”は必ずしも悪いことではない、と反論しています。
”情報の流通”という原点に立ち返って考ると、創った本人が、他の人に伝えたいと思う情報であれば、無料で提供することもあるだろう。情報の複製のコストが下がれば、それによって”新しい声”がマーケットプレースに多く登場することになる。既存の限られたプレーヤーの独占の時代が終わるのは望ましいことでもある。と、ブログを例を出して、”不安定な収入であっても、つづけることができる情報産業”もあるのではないか、と述べています。

Richard A. Epstein: Leave 'bad enough' alone

Nor should we think that the zero cost is always a bad thing. One reason why information is so cheap is that authors are so eager to reach their audiences that they will in effect forgo all cash income to do so. Indeed, in some cases they will pay positive sums (think only of the vanity press) to get people to read what they have to say. If so, then the low cost of reproduction brings new voices into the market place, which happily spells the end of the dominance of a few key players. There is no evidence that the recent onslaught of bloggers has proved to be transient or unstable even if they don’t generate any or much revenue. The expanded set of opportunities is one positive feature about the current situation that has to be factored into the overall analysis.

Financial Timesでの記事は、情報産業の構造問題と政府の政策についてがメインのテーマなので、Noam氏とEpstein氏の議論の引用はこれぐらいにします。
ただここで、同じ情報産業について書かれているのに、何か議論が噛み合っていないような気がしました。情報産業という枠組みの中でも、それぞれのフォーカスが微妙に異なるような気がします。この記事に対して、次のようなブログ記事がありました。

ブログ記事のいいところは、表現がストレートで、分かりやすいので、英語ニュースのように辞書を引き引き読まなくていいことですが、それはさておき、意訳するとこんな内容です。

The coming information collapse?(BuzzMachine)

「確かに大手は、さらにでかくなっていく傾向にあるけれど、それとはまったく違ったスケール感で、小さいやつらも広がってきている。プロフェッサー(Noam氏のこと)が読み違えているのは、その部分だと思う。
今は、かつてないぐらいメディアに対する需要があるんだ。マーケットは崩壊なんかしてはいない。たしかに、価格は崩壊しているかもしれない。でも、それはコストも同じことなんだ。そして今、大きくなっている需要は別の形で満たされようとしている。大手のやつらは、そこではアウト・オブ・眼中なんだ。

今、自宅のガレージで、誰かがアップルのGrageBandを使って、将来のヒット曲を創っているかもしれない(ETechで議論されていたように)。そのヒット曲は、間違いなくアップルのiTunesストアで売られることになるだろうよ」

We will see the big get bigger, like supernovas exploding.But underneath them, we are seeing little guys grow on an entirely different scale.
And that's where I think the professor is wrong: There is more demand for information and media than ever. The market is not collapsing. Yes, prices are. But so are costs. And so, some of this growing demand will be served in new ways. And the big guys will not be out of the picture.

There's somebody using Apple's Garageband in a garage right now creating a future hit that (as some of us discussed at ETech) will surely be sold at Apple's iTunes store.

Noam氏が、「情報産業(音楽産業を含む)は初期投資が大きくて、複製コストが低いから、不安定で不確実になっていく」と言っているのにたいして、Epstein氏は、「いや、そもそも情報流通が、伝えたいことを伝える、ということならば、コストが下がって、”時々伝えたい”という新しい手段が生まれるのは、例えばブロガーみたいな人達にはいいことではないか?」と反論し、BuzzMachineでは「大手のやつらの関係ないところで、自分たちが欲しい情報が入手できて、音楽を創って、簡単に聞いてもらえる方法もあるんだから最高じゃないか」とユーザーの立場からモノ申している感じです。

この三つの意見、同じ情報産業という市場について議論しているようですが、実は異なる市場の見方に基づいているのではないか、と前回に引き続き、クリステンセン氏の「イノベーションの解」に当てはめてみます。

・ 製品別の市場
・ 人口統計的属性別の市場
・ 片づけるべき用事別の市場

という3つの市場の捉え方がある、とクリステンセン氏は述べています。そして第三章「顧客が求める製品とは」のP-92から引用すると、

マーケティングで狙い通りの成果をあげるためには、顧客がものを購入したり利用したりする状況を理解することが欠かせない。具体的に言えば、顧客(個人や企業)の生活にはさまざまな「用事」がしょっちゅう発生し、彼らはとにかくそれを片づけなくてはならない。顧客は用事を片づけなければならないことに気付くと、その用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないものかと探し回る。顧客は実際、こんな風に暮らしているのだ。彼らの思考プロセスには、まず何かを片づけなくてはという認識が生じ、次に彼らはその用事をできるだけ効果的に、手軽に、そして安くこなせる物または人を雇おうとする。顧客が製品を購入する状況を構成するのは、顧客が片づけなくてはならない用事の機能的、感情的、社会的な側面である。わかりやすく言えば、顧客が片づけようとする「用事」や、その用事を通じて達成しようとする成果が、状況ベースの市場区分を構成するのである。製品のターゲットを顧客そのものではなく、顧客が置かれている状況に絞る企業が、狙い通り成功する製品を導入できる企業である。別の言い方をすれば、かぎとなる分析単位は、顧客ではなく状況なのだ。

フムフム言われてみれば、その通りという内容です。”情報産業という市場”という捉え方、”情報(機器)を求める顧客層”という捉え方、”情報をこういう使い方をしたい”という捉え方、3つの視点は、実はまったく別の”市場”を指し示しているのかもしれません。これならば一方は悲観的、他方は可能性に満ち溢れていると、結論がことなるのも納得がいきます。

また関連して別のブログ、Ross Mayfield's Weblogでは、こんな一文もあります。

Collapse of Information Markets?(Ross Mayfield's Weblog)

New combinations of goods are further decommoditized through the very act of consumers participating in production.

「製品に対するユーザーの参加が、コモディティー化を防ぐ新しい方法か?」とこれまたイノベーションの解につながっていきそうな予感ですが、これはまた別の機会に。

イノベーションへの解―利益ある成長に向けて
Harvard business school press
クレイトン・クリステンセン (著), マイケル・レイナー (著), 玉田 俊平太, 櫻井 祐子 (翻訳)
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Posted by jkanekomt at 2004年03月13日 23:57 | trackBack



Comments

While I cannot understand everything that you wrote, I think that I understand the general gist of what you are trying to say.

I have been working with the "University" at our company to bring Clayton Christensen to Tokyo. I think he is the most important thinker for our company and we need to listen to him. I do not know if he will be invited or if his schedule will allow it, but I hope it will happen.

Did you get a chance to look at the OSS PBX called Asterisk? It is very interesting. With some basic hardware and OSS, a person can be a phone company for few thousand dollars and an Internet connection. If this technology can be pushed down to the client (like Skype but also with a connection to the regular phone network) then no one will need the phone company except for Internet connectivity.

Of course governmental regulations may slow down VoIP, but I think it is too powerful to stop. Too cheap. Too easy. Especially for people in nations with monopoly telecom providers, VoIP is a critical future technology.

Posted by: Gen Kanai at 2004年03月14日 18:16

I totaly agree the idea that the market which is devided by products is not exist anymore. People are looking for the solution to solve their problem.
Christensen's message is clear though it is hard to find innovative product. But I think there are much opportunity for individuals if we can implement small, but effective solution with IT technology.

Posted by: Jun at 2004年03月14日 21:24
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