水素エコノミーは「脱炭素化」という技術発展の最終目標

水素エコノミー(ジェレミー・レフキン著)の第八章「水素エコノミーの夜明け」の冒頭では、なぜ水素が注目されているのか?を、「脱炭素化」という言葉をキーワードに解説されている。
水素自体はありふれた元素として、地球上のあらゆる場所に存在するが、これまで人間が活用してきた燃料、エネルギー源にも水素が含まれ、他の主な構成元素である炭素と比較すると、新しい燃料ほど水素原子の比率が大きい。水素の比率があがるほど、効率的、かつクリーンなエネルギー源として利用することができる。ただし自然界には水素のみ単体では存在しないので、いわばエネルギーを蓄積する媒体として、様々な自然界のエネルギー源に含有されていると考えることができる。したがって、エネルギー媒体としての水素を単体で生成し、流通、利用を実現することはエネルギー開発の流れとしては正攻法、かつ最終的な目標点になる、という趣旨。
燃料としての水素の利点(利用後に水と酸素しか残らない)は聞いたことがあったが、既存の化石燃料との関係、位置づけというものを理解することができる。単純に「水素が新しいエネルギー源になる」と聞くだけでは、突然出現した夢の技術のように思ってしまうが、こうして見てみると、確かに水素エネルギーへの移行は、科学技術発展のレールのまさに本線にあるように思える。
”クリーンである = 成分が均一 = 効率がよい”という三つの側面が、互いに表裏一体の関係にあるとも言えそうで、新しい技術としては、こういうシンプルな利点がベースにあるのは強いのではないでしょうか。製造方法やコスト、流通網などは、あくまでの二次的な課題であって、個別の技術革新の積み上げで解決可能だと思われるますし、現状の化石燃料ベースのインフラの巨大さを考えれば、エネルギー技術というのはそれだけの投資がされうる産業ということでしょう。


水素エコノミー(ジェレミー・レフキン著)
第八章「水素エコノミーの夜明け」より
水素は宇宙でもっとも豊富に存在する元素で、宇宙の質量の75%、構成分子数の9割を占める。(中略)水素は地球のいたるところにあり、水にも化石燃料にも、どんな生物にも含まれている。地表の7割は、水か有機体の形をとる水素で構成されている。ただし、水素は、石炭や石油、天然ガスのように単独で存在することはまずない。水素はエネルギーを運ぶ媒体で、何かからつくりださなければならない二次的形態のエネルギーだ。その意味では電機に似ている。
(中略)
「脱炭素化」とは、新しいエネルギー源が登場するたびに燃料中の水素原子に対する炭素原子の割合が減ることを指して科学者が使う言葉だ。人類の歴史のほとんどを通して、主要エネルギー源として利用されてきた薪は、他の燃料と比べて炭素の割合がもっとも大きく、炭素と水素の原子数の比率は10対1だ。化石燃料のなかでは石炭が一番炭素の比率が高く、水素原子一個に対し、炭素原子はおよそ1、2個(2対1)。石油の場合は炭素対水素が1対2、天然ガスではわずかに1対4だ。つまり、新たなエネルギー源が登場するたびに、二酸化炭素の排出量は減ることになる。ウィーンにある、国際応用システム分析研究所のネボイシャ・ナキシェノヴィッチの推定によれば、世界中で消費される一次エネルギーの単位量あたりの炭素排出量は、百四十年前から毎年、0.3%ずつ減少し続けているという。
(中略)
脱炭素化の旅の終着点は水素だ。水素という燃料は炭素原子をひとつも含まない。水素が未来の主要なエネルギー源となれば、人類の誕生以来ずっと続いてきた炭化水素エネルギーの時代は終わりを告げる。太陽エネルギー源でもある水素(水素は太陽の質量の三割を占める)は、この地上での人類の変わらぬ発展を約束してくれる希望の星として、ますます期待を集めている。水素はあらゆる形態のエネルギーのなかでもっとも軽く、もっとも無形に近く、燃やしたときにもっとも効率がよい。
(中略)
エネルギーが固体、液体、気体と変わるにつれ、一定時間内での処理のスピードと効率が上がり、生み出される技術や商品、サービスもまた、より速く、効率がよく、軽く、バーチャルなものへと移行していく。

また、実際の水素エネルギーに対する取り組みの事例も何件か紹介されていて、参加している企業、規模を考えると、研究段階から、すでに初期投資フェーズに入っていると考えるのが順当のようです。日本でも自動車メーカー各社の燃料電池車の発表がニュースをにぎわせていますが、本文では以下のような例も紹介されていました。

2002年の国連開発計画が後援するフォーラムで、ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ会長のフィル・ワッツが「石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料から、この21世紀には水素を基盤とするまったく新しいエネルギー体制に移行することに備えて、すでに10億を投資している。」と明らかにした。

1999年にはアイスランドが世界初の水素エコノミー国家を目指すという長期計画を発表し、多国籍企業三社(ロイヤル・ダッチ・シェル・グループ、ダイムラー・クライスラー、ノルスク・ハイドロ)とアイスランドの六団体(レイキャネス地熱発電所、レイキャヴィーク市営電力会社、化学肥料工場、アイスランド大学、アイスランド研究所、ニュービジネス・ベンチャーファンド)による合弁企業、アイスランディック・ニュー・エナジー社を立ち上げ、事業資本の51.01%を出資した。同社は20年以内にアイスランド経済全体を水素を基盤に運営し、国から化石燃料を事実上一掃することを目標としている。

ハワイ州でも同様のプロジェクトとして、エネルギーの自給自足を実現するべく、豊富な地熱エネルギーと太陽エネルギーを水素燃料に変換する計画をすすめ、将来的には需要を上回る水素を製造して、余剰分をカリフォルニアに送れるようにすることを目標にするという。

「水素エコノミー」という言葉を最初に使ったのはゼネラル・モーターズ(GM)であり、2000年5月にGMの先進技術車部門担当取締役ロバート・パーゼルが「当社の長期ビジョンは水素エコノミーの実現だ」と語った。