ブログ脳2 書けるのは、その時だけの、草文章

ブログ脳1 書くことで、記憶の中の意味を立ち上げる」 より続く

書いてみないと分からない

「別に、書くようなことも無いしなぁ」という意見があります。確かに、世の中の人全員が、知ってなければいけないような出来事は、普通の人には殆ど起こらないし、逆に毎日のように起こったら、それも困りもの。

「夕飯に何食べたとか、そんなこと書いても意味ないでしょ?」という問いもあります。それに対する答えは多分、「場合によっては意味があるし、無いかもしれない」。

前回まとめたように、「書く」という行為そのものが、書く人の記憶のリンクを促し、新しい意味を立ち上げる。そしてブログのように、日常の中で気軽に書く文章の場合は、ほとんどの場合、結論は書きながら思いつくものだし、そもそも結論自体が無くても、テキスト自体は成立しえます。要するに、日常というのは、書いてみないと分からないことだらけなのかもしれません。

「脳」整理法 p.19

もともと、脳は、世界との交渉で得たさまざまな体験を整理し、蓄積することに長けた臓器です。たとえば、自分自身の身体に関するイメージ(ボディ・イメージ)でさえ、「このような運動をすると、こういう感覚がフィードバックされてくる」という関係が成立することを、体験し整理し続けることで獲得されていくのです。この際の関係性は、「いつ、どこでもそうなる」というような決定的なものではなく、半ば偶然に、半ば必然におこるという「偶有性」(contingency)に満ちたものになります。

「脳」整理法 茂木健一郎・著 より

体感する文章

脳は体の中で、もっとも酸素を必要とする機関です。ブログを書くという行為が、指先でキーボードをタイプする動作にしか見えなくても、指の先には神経につながれた脳が存在する。さらに飛躍するならば、書いている出来事の記憶には、目の前の食べ物を手でつかみ、口を開いて噛み砕き、味わい、のどごしを楽しんだ、身体の感覚が存在します。

プロスポーツ選手のイメージトレーニングでは、実際に体を動かすための脳の部位が活発に活動しているとか。体験したことを、よりリアルに描写しようとするためには、身体的な感覚を呼び起こす必要があります。自分の体の感覚を思い出し、そこに事実や意味をリンクさせていく作業。そのような複雑な作業の結果は、あらかじめ予測できるものなのでしょうか?

「昨日の夜,夕食を食べた」という1億人に共通する事実の裏側には、千差万別の生活が存在します。そのすべてを記録することには、とりたてて意味が無いかもしれません。ただ、もし何か自分の中で、印象に残った感覚があるならば、それを思い出して再編集してみることには、なにがしかの意味が存在するのでしょう。

ブログは草文章です。まだ完成していない、草稿の段階で出してしまってもOK。必ずしもしなくてよい、道草でもある。野生の草花のように、どんな方向に咲いてもいい。それゆえに、何が書き上がるか分からない面白さもある。ただし、その時に書いておかないと、もう一生書くことは無いかもしれない。個人の体感に根ざした面白い文章、というジャンルは、まだまだ発展途上のような気がします。

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「脳」整理法 p.30

科学的知見が、統計的な処理による「傾向としての真理」でしかない以上、科学の知識を運命論のように受け入れてしまうことは正しくありません。たとえば、外国語学習に「臨界期」(ある行為を学習するために、発達上、適切とされる限られた時期)があるということを示すデータがあったとしても、現時点での科学的知見の水準からいえば、それは絶対例外のない法則ではありません。不幸にして臨界期を過ぎて外国語学習を始めた人が、「だから私はダメなんだ」と悲観する必要はないのです。

振り子の運動のような単純な対象を扱っているのではない限り、科学の知見は、さまざまな複雑な前提のもとでの、統計的なデータを示すにすぎません。「臨界期があろうがどうだろうが、知ったことか。私はこの外国語を何がなんでも習得するんだ」という気迫がある人にとっては、統計的データにもとづく科学的知見は、参考にすべき一つの資料にすぎないのです。

*** 中略 *** p.32

一生に一度しか起こらない出来事の大切さ

私たちの人生は、統計的な平均をとってしまえば消えてしまうような、多様なニュアンスに満ちています。一生に一回しか起こらないような出来事が、個々の人生に決定的な痕跡を残すこともあります。学びの機会はどこで訪れるのかわかりません。このような人生の「一回性」の大切さは、統計的な真理を扱う科学的方法論では、いまのところとらえ切れていないのです

*** 中略 *** p.34

一回性の出来事は、半ば規則的で、半ば偶然であるという「偶有性」に満ちています。

*** 中略 ***

一回性の体験を大切に封印し、整理していく脳の働きこそが、私たちの人生をつくっていくのです。

「脳」整理法 茂木健一郎・著 より