「真昼のプリニウス : 池沢夏樹」 自然の中で眠る

自然の中で眠る。ほどよい広さのテントの中で、快適な寝袋にもぐりこむ。満月の夜ならば、テントを透けて降り注ぐ、月の明るさに寝つけないかもしれない。夜中に海風が強まれば、バタバタと震えるタープの音で目を覚ますだろう。自然につながる空間で、熟睡するのは意外と難しい。人間の内にもかろうじて残る、危険を察知する本能が、ぬくぬくとした惰眠を許さないのだ。

それでも朝、目覚めると、不思議と体が軽い。人は夢をみることで、自分の記憶を整理するという。星空の下で、夢現(ゆめうつつ)に自然と対話をすることで、忘れていた何かのつながりを、思い出すのだろうか。池沢夏樹氏の「真昼のプリニウス」には、 自然の中で眠る、印象的な二つのシーンがあった。

それから、そのままジープのシートに身を横にして眠ろうとしたのだが、眠れなかった。奇妙な状態だった。もしもそこに誰かがいて、横になっているぼくを見れば、この男は眠っていると判断しただろう。その状態は単に寝つけないというのとは違って精神の八割までは眠っているのに、残りの二割の部分が眠っている八割を圧倒するほどにくっきりと目覚め、風の吹く音や、葉の一枚ずつが擦れ合う音、星のゆっくりとした動き、地面の温かみ、空気に含まれる匂いの分子の一つ一つ、などを確実に拾っている。それを精神は一つも余さずに意識しているという、実に変な感じだった。それがいつまでも続いて、眠った状態で何かを知覚しているという意味では要するに夢の中によく似ているのだけれども、しかし見えているものはたしかに時々刻々のその森の中の、木々の梢の間の天頂部分だけの星空であり、それだけで判断してもそれもみんな現実のままという、夢らしさのまるでないもので、それを夢と呼べるとは思えなかった。自分が目を開いているのか閉じているのかもわからなかった。これはずいぶんとおかしのことの連続だった今回の撮影全体で一番奇妙な体験だったかもしれない。

p.148 真昼のプリニウス より

小説全体としては、劇的な物語展開はさしておこらない。それでいて、世界をありのままにとらえようと試みる、主人公たちの率直な後ろ姿に、スケールの大きな自然の存在を感じる。

毎日の帰りの電車のなかで、惰眠ばかりを貪るのも何なので、こんな読書感想文をw-zero3で書いてみた。

真昼のプリニウス
池澤 夏樹
中央公論社 1993-10

by G-Tools , 2007/01/25