Waves 風の日々 : 高橋宣之 写真集

写真は、まだ見ぬ土地を見せてくれる。たいがいの風景写真は、見て感動したならば、その場所を訪れ、レンズの記憶を自分の瞳で追体験することが可能だ、、が、ある種の写真は、そのような派生的な体験を一切寄せ付けない。記録された瞬間の色彩が、あまりに鮮烈すぎて現実感を失い、どこかで撮影されたはずなのに、どこでもない空間が現象されるのだ。

新宿の紀伊国屋書店で、偶然手に取った『高橋宣之作品集--Waves-風の日々』は、まさにそんな写真集だった。ひとつとして同じ波はない、確かにその通りではある。ただ、空の青さや水の透明度、映り込む風景などで、普通は「なんとなくハワイかな?」「スリランカかな?」と雰囲気は感じられるものだ。それがこの写真集では、まったくわからなかった。一枚ごとの豊な色合いに、すべての写真が高知県で撮影されていると知って、さらに驚きだった。

そしてあとがきを読んで、すこし納得した。高橋さんが波に向かう姿勢には、サーファーのそれに近いものを感じる。風景の中のパーツとしての波ではなく、波の一つ一つが、その眼前に自分の身をさらし、きわどい間合いでやり取りをする、生きた対象なのかもしれない。

波の前では一瞬のミスがアクシデントにつながる。波が近付いたとき、シャッターを切るか、切らずに逃げるか、この決断はいつになってもむずかしい。フォーカシング中のファイダーの像だけでは波の大きさや波との距離、波の速さなどは判断できず、私はくずれる波の音に神経をとがらせ、波の気配を感じとるようにしている。しかし強風の中ではこの音も聞きとりにくく、危険はいつもつきまとう。また、最初の波に次の波が重なった二重の波は見た目よりはるかに強力で、最も注意しなければならない。事実私のこの波に二度もカメラをやられてしまった。被害数、カメラ2台、レンズ5本、行方不明フィルム10数本。カメラの修理費や体の打撲傷ももちろんだが、消えた撮影済みフィルムはいつまでも悔やまれる。

高橋宣之作品集--Waves-風の日々』 より


高橋宣之さんの写真は、以下のサイトでもいくつか見ることができます。

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