社員をサーフィンに行かせよう

社員をサーフィンにいかせよう。まずはそのタイトルにつられて書籍を購入。サーフィンに適した波は、常に毎日あるわけではない。いい波がいつ来るのかは、人間のコントロールの外側、自然によって決定される。であるならば、人間が自然にあわせて、波のある日にはサーフィンに行けるようにすればいいだけだ。そう、その『だけ』が、どれだけ難しいか。誰にでも明白な道理なのに、その通りに行動するのは難しい。そこであきらめずに、では何がそれを難しくしているのか、どうすればサーフィンに行けるのか。論理的に考え、具体的に行動する。当たり前のようでいて、続けることは難しい。その地道な蓄積が、パタゴニアのカルチャーを形づくり、いつの日かユニークと呼ばれるようになったのだろう。

本書は、パタゴニアという企業の経営理念の説明というよりは、創設者であるイヴォンと、彼の周囲に集う人々のこれまでの行動の記録だ。どのようにして、自分たちが身をささげる冒険やアウトドアスポーツと、働くこと、生きることを両立させられるのか。そのためには、どのような行動指針を共有すべきなのか。何かの方法論があるわけではなく、大自然のなかで生き残るのに必要とされるように、周囲の状況と自分の力量のバランスをとりながら、真剣に一歩ずつ、前に進んでいくより他にない。

イメージの理念

人は誰でも、自分で気づいていようがいまいが、生涯を通じて、他人に与えるその人個人のイメージを創造し、進化させていく。企業もまた、イメージを創造し、進化させている。そうしたイメージには、事業を営む理由から生じたものもあれば、いままでの行動から生じたもの、ことによると広告担当者が想像力を駆使してまとめたものもあるだろう。時に、他者から見た企業(あるいは個人)のイメージは、自分の描くものとはかなり異なる。

パタゴニアのイメージは、創業者および従業員の価値観、情熱、アウトドア志向から直接生じている。中には実際的で名前を付けることが可能な側面もあるが、一つの公式にあてはめることはできない。それどころか、イメージの多くが「本物であること(オーセンティック)」から生まれたものなので、公式に当てはめてしまうと壊れかねない。

皮肉にも、パタゴニアの「本物であること」という信条には、そもそもイメージなど気にかけないことが含まれている。公式がない以上、イメージを維持したければ、それに沿って行動するほかない。私たちのイメージは、私たちが誰で、何を信じているのかを直に反映している。

パタゴニアのイメージの核をなすものは何か。自分たちは世間にどのように見られているのか。まず挙げられるのは、言うまでもなく、世界一のクライミング道具を作る鍛冶屋が起源であること。そこで働いていた自由思想の自立したクライマーやサーファーたちの信条、考え方、価値観が、パタゴニア文化の基礎をなしているーーーそしてその文化から、一つのイメージが生じた。実際に使う人々によって作られた、妥協のない本物かつ高品質の製品、というイメージだ。

社員をサーフィンに行かせよう--パタゴニア創業者の経営論 p.192』 より

パタゴニアのホームページでは、本書の一部分を読むことができるようになっています。

パタゴニア:パタゴニア・ヒストリー

また、ホームページやカタログには、沢山の素晴らしい冒険・自然写真が掲載されています。ファッションモデルが服を着ている写真を広告にするのではなく、自分たちの価値観を体現する、クライマーやサーファー、自然活動家をアンバサダーとしてサポートすることで、イメージの核の一つとなるビジュアル・イメージを獲得しているということなのでしょう。

あらゆるスポーツで、自分の体の動きを正しくイメージし、そこに近付こうとすることが、最も重要とされます。行動すること。結果を予測して、自覚的に、自らの未来の姿をつくりあげていく。パタゴニアの理念は、そのような身体感覚に基づいた、生き方の理念とも言えるのでしょう。

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社員をサーフィンに行かせよう--パタゴニア創業者の経営論
イヴォン・シュイナード 森 摂
東洋経済新報社 2007-03
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by G-Tools , 2007/09/11