ケータイという新しい流通チャネルの巨大トラフィックが、小さな小説市場を蹂躙した年

ケータイ小説ベストセラー現象を、小説としての内容の善し悪しは一切切り離して、単純にその普及するプロセスと流通チャネルに着目してみると面白い。まとめると、『無料でオープンなコンテンツで、新しい顧客を開拓』して、『既存のビジネス(流通チャネル)に誘導』することで、新しいマーケットを開拓した、ということでは? 

だから、「こんな内容なのに、文芸書のベストセラーを取るのはケシカラン」というのはちょっとピントがずれているような気がする。小規模な文芸書という流通チャネルに、ケータイという巨大マーケットからトラフィックが一気に流れ込んだので、ランキングの上位を独占された、という雰囲気に近いのでは。『売り上げランキング』というビジネスの大小が評価される指標なのだから、より大きな顧客・トラフィックを持っているところが強いのは当然。

まとめて本で読むと違和感のある内容も、もしかしたら新しい流通チャネルの中で最適化された結果かもしれないし、あるいは単純に新しい市場なので、内容については、まだそれほど競争がないのかもしれない。もしかしたら、ちゃんと新しいマーケット、流通チャネルの可能性を把握して、よりよい内容のものを出していたら、既存の大手出版社がケータイ小説でも成功していたのかもしれない。しかし他のマーケットでも、新しい流通チャネルは、ほとんどが新規参入者によって開拓されてきたので、やはり既存のビジネスモデルを持っていると、なかなか難しいのでしょうか。というわけで、思いつくままに、ケータイ小説的な流通チャネルの特徴をリストアップしてみる。

隙間の時間を確保する

色々と楽しいイベントやメディアのある現代で、まずは手に取ってもらうまでのステップ。

  • 細かい章立てにして、「手軽に読み切れる」
  • 読み切り単位に、「キャッチーな小話(起承転結)」がある
  • 日常生活のなかで、「断続的だが、ただし長い期間」読み続けられる

人づてに、評判が広がりやすい流通チャネル

「これ面白いよ!」と、人に話しやすい、見せやすいコンテンツの流通ルートに乗せる。

  • 誰でも持っている(PCより多い)、携帯電話で見られる
  • 無料で公開されているので、友達に勧めやすい
  • 細かく頻繁に更新することで、「今の回、読んだ?」と話のネタに
  • 細かい章単位で、メールで送ったり、引用できる「個別リンク」

不便な点を改善する、ビジネスモデル

無料で完結せずに、派生コンテンツをつくる余地のあるメディア。

  • 携帯の画面サイズで読むのは面倒なので、まとめ本を買う
  • 細切れのストーリー全体を把握できないので、本で読み返す
  • 話題としては知っていたけど、携帯では読まない層に売る
  • 話題性に便乗して、他のメディアにライセンスビジネスを展開する

こう並べてみてちょっと思ったのですが、これってマンガのビジネスモデルに近いかも。コンビニや駅のキオスクという、より広い流通チャネルで展開している週刊連載を、単行本というパッケージで大きく稼ぐ。人気のある原作を映画やドラマ化する。内容の善し悪しに、クレームがつくのもなんか似ている。となると、まさに「いかにして新しい情報の流通チャネルを開拓するか」という点で、既存のビジネスモデルを持っている出版社を、新しい勢力が出し抜いたということのような気もします。